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第1回 9月17日(土)15:30~18:40

~ロード “サイド” ムービー~

上映作品:
『さらば愛しき大地』(1982年、柳町光男監督) 134分・35mm・カラー

富田克也監督(『国道20号線』『サウダーヂ』他)と城繁幸氏(人事コンサルタント、作家)がセレクト&対談解説。

ゲスト:富田克也(映画監督)

1972年山梨県甲府市生まれ。高校卒業後、音楽の道を志し上京。音楽活動に出口を見いだせず映画を観まくる日々、いつしか映画を撮りたいと思うようになる。都内で配送業に従事しながら、処女作『雲の上』(2003年)を発表し、「映画美学校映画祭2004」の最優秀スカラシップ受賞。この賞金を原資に『国道20号線』(2007年)を製作。最新作『サウダーヂ』はロカルノ国際映画祭に正式出品、ユーロスペース他にて10月22日からロードショー。

ゲスト:城繁幸(人事コンサルタント、作家)

1973年生まれ、東京大学法学部卒。富士通を経て2006年よりJoe's Labo代表。人事制度アドバイザーのかたわら、雇用問題のスペシャリストとしてメディアで発言。2009年からは「ワカモノ・マニフェスト策定委員会」の一員として、世代間格差問題にも取り組む。著作に『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』(ちくま新書)『7割は課長にさえなれません』(PHP新書)等。

15:30-15:39(9分)
ゲスト紹介と上映作品についてコメント
15:40-17:53(133分)
映画上映『さらば愛しき大地』(130分)
17:55-18:37(42分)
対談と質疑応答…城繁幸氏×富田克也監督
『サウダーヂ』の予告編を上映

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【ゲストの紹介と挨拶】

司会・伊達: 映画プロデューサーの伊達浩太朗です。各界で活躍されている方に日本映画をセレクトして頂き、日本映画の良さ・魅力を再発見していくこの企画、本日は2011年の第1回目で、ゲストに富田克也監督と、人事コンサルタントで作家・評論家の城繁幸さんをお招きしています。
富田克也監督は最新作『サウダーヂ』の公開を控えています。これはいわゆるインディペンデントの作品ですが、今夏のスイス・ロカルノ国際映画祭のメインコンペ部門に招待され正式出品するという快挙を成し遂げられています。
もう一人のゲスト、城繁幸さんは一見映画に関係ない御職業なのですが、実は池田千尋監督の商業映画デビュー作『東南角部屋二階の女』(2008年)は、城繁幸さんの『若者はなぜ3年で辞めるのか?』をかなり参考にして脚本が書かれていると伺っています。
この「カルト・ブランシュ」はスタートしてから数年経つのですが、私は尊敬する柳町光男監督の作品を是非どこかでやりたいと思っていました。そして今回、お二人が柳町光男監督の『さらば愛しき大地』という傑作を選んでくれた。個人的な話で恐縮ですが、念願が叶い本当に嬉しかったです。
では早速お二方をお呼びしたいと思います。皆さんどうぞ拍手でお迎えください。


富田: 今日は皆様わざわざお越し頂き、ありがとうございます。富田克也です。
城: 城繁幸です。
富田: まず、なぜ今回『さらば愛しき大地』を選んだかというと、僕たちが非常に柳町光男監督のファンであるということもありますが、今やなかなか昔の映画をフィルムで観ることが出来ない時代です。何を隠そう、僕もスクリーンでこの作品を観るのは初めてです。
以前、2008年の東京国際映画祭で柳町光男監督の『火まつり』(1985年)をフィルムで観る幸運に恵まれました。そして今回、『さらば愛しき大地』をフィルムで観れるという得難いチャンスをこの企画から頂き、じゃあ是非この機会にということで決めさせて頂きました。
僕らは「空族」(くぞく)と名乗って、自主制作で映画を作り続けてきました。柳町光男監督から話を聞いて非常に驚いたのですが、この作品は自主制作で作られている。柳町光男監督が、ホントに自分の茨城のご実家の田畑を売り飛ばして製作費を作った。そしてそういう自主制作作品であるにも関らず、根津甚八さん、秋吉久美子さんという錚々たる役者さんたちが出演なさっている。しかし、作品が完成した後に東京中の配給会社に持っていったら、全て断られた。
時代を鋭く捉えた映画で、言ってしまえば確かに配給会社が嫌ってしまうような、一般のお客さんが来てくれるとは思えないような厳しい内容も描かれている。ですが、時代時代でこういう映画がキチンと残ってきたことは、僕らが映画を作る励みにもなっています。ということで、そこらへんに注目して観て頂いて、上映後はまた違った切り口からお話させて頂こうと思います。
司会・伊達: ではこれから『さらば愛しき大地』の上映に移らせて頂きます。城繁幸さん、富田克也監督ありがとうございました。


--- 映画『さらば愛しき大地』(柳町光男監督、1982年、130分)の上映 ---


司会・伊達: 皆様、映画は如何だったでしょうか。ではこれから、城繁幸さんと富田克也監督に対談して頂きます。お二人どうぞ、ご登壇ください。
富田: 皆さん大丈夫でしょうか。僕はちょっと放心状態です。では、僕から始めさせて頂いて構いませんか。
城: どうぞ(笑)。

『さらば愛しき大地』と『サウダーヂ』。その時代の異同

富田: この映画を観るたびに、自分たちの作っている映画が、どこかで柳町光男監督の作っている映画に地続きで繋がっているのではないかと思えてしまいます。この映画では、ダンプの運転手(根津甚八)が主人公です。農村地帯で工業化が進み、そこにダンプが走り込んでいく様が、まるで覚せい剤という異物が体内に入っていくのと同じように象徴的に描かれているのではないか。
僕はいま40歳に一歩手前の年齢で、城さんもほぼ同世代ですが、僕らの世代はあの時代の名残を青春時代に見て育った。せっかく城さんに来て頂いているので、職業という切り口から始めてみます。
僕はこれから公開になる『サウダーヂ』という映画を、土方という職業を軸に置いて作ったのですが、僕らが高校生いや中学生くらいの頃は、例えば学校で悪さをしてドロップアウトしても、「まあいいじゃん、最後に土方があるから」みたいな時代だった。最後はそこに行って働けば、「人生何とかなるよ」という気持ちがどこかにあって、そういう時代を生きてきた。
ダンプの運ちゃんというのも、「土方とかダンプの運ちゃんやればいいじゃん」みたいな同じような捉え方で、僕らの中にありました。僕の同級生でも、ダンプの運ちゃんやっていた奴がいっぱいいました。ダンプの運ちゃんは元手が掛かります。あのデカいダンプカーを買って返済していく。それでも、僕の友人でもの凄く荒稼ぎして、家をドンと建てたやつがいました。結局、離婚して奥さんにその家をあげちゃうんですけど、そいつがそのあとロードサイドで中古車屋さんを始める。その中古車業が全く売れなくなっちゃって中古車屋をたたむのですが、その彼が果たしていま何をやっているのか、音沙汰ないので僕も分かりません。
土方という存在を『サウダーヂ』で描くことで、かつて僕たちがずっと続いていくと思っていた世の中が終わってしまう予感といいますか、「最後は土方やればいいじゃん」と思っていた土方すら無くなってしまうという気配が漂う地方を描いた。
そんな時代が、僕らがそう思っていた時代がありましたよね。
城: ありましたね。この『さらば愛しき大地』で凄く面白いなと思ったのは、農村が解体されて、土方が新しいという時代を描いている。土方というか建設業、そしてダンプが新しい時代。でも『サウダーヂ』は更に一歩進んで、それが終わるところを描いている。そういう節目節目になっている。
20年後に、映画界で「伝説の映画『サウダーヂ』」というのを多分次の世代の人が話していると思う。「土建屋というのがあってね、昔は公共事業が」みたいな話をしていて。そして客席の後ろの方に富田監督がこっそり見に来ていて、みたいな話になっていると思うんですよね。節目節目の映画が、ちゃんと点と点で繋がっているのだなと、今日観て思いました。『サウダーヂ』をこのあいだ拝見させて頂いたので、凄く繋がっている感は感じました。
富田: 僕もね、昔はちょっと違う意識で見ていたと思うのですが、最近見直すたびに、非常にそういう思いがありまして、やっぱり繋がっている。当時、農村地域に工場というものが出来始める。それは非常に異物だったでしょうし、それによって人々の生活が変化していく。人々がその変化になかなか追い付けず、混乱をきたしたりとかあったと思うんです。ただ、お金をドンと持った時代ではある。今はドンドンそういうのが無くなって、かつては経済大国なんて言われたこの国も、格差とかそんなことを言われる時代になったのだなと、つくづく思うんです。僕らも含めて若い世代が「何してんのかな」と、僕なんかが見えないところがあるんですよね。城さんの方がご存じだと思うんですけど。
城: 『さらば愛しき大地』もそうだし、富田監督の『サウダーヂ』『国道20号線』もそうだし、焦りみたいなのはありますよね。僕の田舎は山口県の中国山地の山で、富田監督の映画の舞台である山梨県とそんなに変わらないと思うのですが、帰るとやっぱり焦りみたいなのを感じる。最近面白いと思うのは、東京でもそうなんですよね。東京の特に20歳前後の学生とか、フリーターやっている奴とか、やっぱり焦りがある。
『国道20号線』(2007年)の頃までは、「地方でこんなことがあるんですよ」みたいな捉えられ方をされていたと思うんです。でも地方が一番先を進んでいて、2011年になって日本全体がローカルになりつつある。もちろん感じ方とか表現の仕方が違うのだけど、『さらば愛しき大地』の主人公と『サウダーヂ』と、みんな同じ共通の空気がある。東京で暮らしている人も感じると思うんですよね。実は地方が一番先を進んでいる、そういう一つのシーンを描いている映画になりつつあるなというのは、僕は凄く感じるんですよね。
富田: これは柳町光男監督からではなく、柳町光男監督の作品を研究している大学教授から聞いたのですが、『さらば愛しき大地』は現実にあった事件を基に作られているそうなんです。実際にこういう事件を起こして、刑務所に入って、しかも柳町光男監督のかなり近しい友人の実話らしいと聞いたことがある。『さらば愛しき大地』は柳町光男監督の出身地の茨城を舞台にして描いていますが、僕たちも僕の出身地である山梨県をリサーチした上で、現在起こっている状況を描いている。『さらば愛しき大地』もそうだったと思うんです。
 しかし、作り手がフィクションとして映画を作ることを考えるときに、今まさに起こっていることそのままではなく、何かしら現実に対する批評性も入ってくる。作家が思うその先だとか、何か思いを馳(は)せるものはどこかにあると思う。僕らも、はっきり口では言えないようなそういうものを映画に込めていると思うんです。
先人の込めたものがこうしてフィルムとして残っていて、それを体験出来るというのは、映画の良いところだと思う。時代を超えて自分たちに迫ってくる。「いま自分たちが生きている現実って、どういうことなんだろう」と、現実を振り返って見れますからね。そういうことを感じながら、ひたすら観たりする。
この作品の描く時代は、城さんがさっき言われた焦り、もの凄い焦りみたいなものがあるというと、焦りというよりは、次から次へと何かを自分の手中にしていきながら、それを手にする中で逆に失っていく。焦りというよりは、むしろちょっとその逆のような印象も受けました。
僕とかが感じるのは、かつては「土方をやればいい」と思っていたのが、土方がなくなっていく焦りみたいなもの。これは、城さんが書いた『若者はなぜ3年で辞めるのか?』の話にもつながっていくと思うんですけどね。なんで3年で辞めるんですか?
城: いや、なんでしょうね。学校出て1つの会社に入り、ずっと定年まで働くという価値観が崩れてきた。
富田: 信じていたものが無くなっていく感じですよね。
城: そうです。バブル崩壊以降、ドンドン無くなってきている。田舎に行く度に商店街が閉まっていたりするじゃないですか。子供もドンドン減っているから、中学校つぶして統廃合。それが実は都市でも起こっている。
この映画の中では、焦っている古い世界というのもあるけれど、全体的に明るいですよね。豊かになって、みんな生活が良くなって、奥さんが美人になって、車も良くなって。今の地方というのは、それとは違う空気がある。だけどやっぱり共通する焦りみたいなものはあって、20年後とかに観てみると、1つの点と点が線になって、『サウダーヂ』に続く次の新しい映画というのが出ていると思う。

映画館で観る。観せる

富田: 皆さんそれぞれに、色々なことを考えて映画をご覧になると思うのですが、僕は今日こうやってこの作品を選ばせて頂きまして、本当にありがたいことにフィルムで初めて観ることが出来ました。全くホントに、相変わらずやっぱり凄いなこの映画は、と茫然自失なんです。
城: 自主制作であのキャストは、凄いですよね。
富田: 凄いです。撮影にまつわる裏話を少し紹介しますと、広範囲の収穫期の稲穂が風でファーっとなびくシーンがありましたが、自主制作だからひたすら風を待ち続けて撮っているのかなと思いきや、なんとヘリコプターを飛ばしている。ヘリコプターに風を巻き起こさせ、その風で広範囲の稲穂を揺らしている。映画が太っ腹に作られていた。自主制作といっても、今みたいにビデオがあって製作費チョコチョコで身内でバタバタと撮って済ますのではなく、それももちろん良いのですけど、35mmのフィルムでああいう役者さんに出てもらっている。
そもそも映画に対する考えが太っ腹ですよね。その先自分が食えなくなるかもしれない、でも金をドンとはたいてこういう作品を作っちゃうという、その太っ腹加減が嬉しい。僕らもそうありたいと思いますけど、なかなか。でもね、こういう監督の映画に影響を受けてきているので、気ばっかり太っ腹になっているところがありますけど。
城: 結構似ていると思いますよ(笑)。
富田: いやいやそんな、滅相もない(笑)。
城: あえてスクリーンで見せる。そういうこだわりをお持ちだから、なかなかDVD化はされないですよね。多分お話は来ていると思うんだけど。スクリーンで見せることにこだわりがある。
富田: そうですね。僕たちの世代は、工業化が進み、団地が出来て、核家族が出来て、バラバラになっていく、みたいな話になってきますよね。大きな資本に同じものを与えられて、行き場所も限定されていく。僕が前に作った『国道20号線』では、ロードサイドで行く場がパチンコ、ATM、ドン・キホーテ、チェーン店、ショッピングセンターという生活を描いた。「はい、あんたたちここで生活しときなさい。あんたたちが求めているのはこの程度のものなんでしょ」という感じがして仕方がない。自分たちの行き場があまりにも限定され、面白くないものしかなくなっていく。
映画も「DVDで見ればいい」となる。映画がビデオで撮れる、見れるということには当然良い側面もあるのですが、このまま行くと映画館が無くなってしまう。僕らには「映画館が無くなるのはいやだ!」というのがどこかにあるんです。僕らがフィルムにこだわるのはそういう意味もあって、やっぱり大きなスクリーンで映画は観たい。少なくとも僕らはそうやって映画を観てきた。
僕の先輩の映画監督が凄く良いことを言っていました。暗闇の真っ暗な中に、身を鎮めてスクリーンを眺める。同じ空間の中で色々な人の息遣いが聞こえる。今この場面で他の人たちはどういう反応をしているのだろうか。自分はここで笑えたけど、他の人は笑っていないなとか、映画館だと佇まいが伝わってくる。でも映画館ではなく、個々人の部屋で映画が消化されてしまうと、それがなかなか分からなくなってしまう。僕もそうだと思いますし、それにこれだけデカい画面で観るのは、やっぱりいいですよね。
城: 作品の印象が全然違いますよね。
富田: 違います。この作品は、僕は今までDVDでしか観たことがなかった。やはり違う。
城: 下ネタの場面で、観客席の向こうの端で笑っている方がいましたが、ひょっとして?
富田: ええ、僕です(笑)。笑うといえば、『サウダーヂ』の試写を柳町光男監督に観に来て頂いたんですけど、柳町光男監督が『サウダーヂ』で笑ってくださるところがまた独特で。逆に僕は柳町光男監督の映画を観て、同じようなところで笑っていました。そこはどことは言いませんが、柳町光男監督とは年代を超えて相通ずる部分がありまして。普段もお付き合いをさせて頂いております。
司会・伊達: 私から1つだけ質問です。映画監督として、テクニックも含めて、柳町光男監督やこの『さらば愛しき大地』から学んだことは何でしょうか。
富田: 柳町光男監督から学んだことは、まずはやはり映画を作るその太っ腹な姿勢ですよね。あと、僕はあまりこういう言葉を使わないのですが、やっぱり画面が美しいと思います。それはもちろん撮影が、たむらまさき(田村正毅)さんだというのはある。ホントにこのお二方はゴールデンコンビだと思っていますけど、それも含めて豊かな映画である。この映画が撮られた時代は、それまでの時代に比べれば、そんな良い時代ではないと思うのですけど、やはり「自分たちで作るんだ」と出て来た世代の監督さんだと思います。中上健次という作家とガッツリ組んで映画が作り出されていた時代ではあるので、また今の僕らの時代とは違う、豊かな時代だったなあと。それは羨ましいですし、僕らには真似出来ないところもあります。他にも色々なことを学びましたが、何だろう、すいません、あまり急には出て来ない。
司会・伊達: ありがとうございます。それでは折角の機会なので、会場から質問を頂けたら。


--- 会場から:質疑応答 ---


観客A: 大変楽しく拝見させて頂きました。ありがとうございました。この作品が自主制作と伺いましてビックリしているのですが、どのくらいの予算で作っていると思われますか。
富田: 5000万円という数字を、その5000万円を集めるのに俺と誰と、みたいなそんな話を聞いたことがあります。でも恐らく作っていくうちに、それもドンドン超えてしまったとは思うんです。正確な数字は、僕も分かりません。あまりいい加減なことは言えませんが、多分そのくらいは当然かかってしまっていると思います。
観客A: 制作期間はどれ位だったのでしょう。
富田: 虎ちゃん、聞いたことある?
(会場から相澤虎之助さん: ないよー)
富田: でも長いはずだよね。そこそこ期間はかかっていると思います。最低でも3カ月4カ月、半年くらいかかってそうな感じはしますけどね。ちょっと分からないですね、すみません。
観客A: 大手で配給を断られたという話がありましたが、単館上映とかだったのでしょうか。
富田: 配給を断られたので「自分たちで配給しちゃおう」とプロダクション群狼を立ち上げた。恐らくプロダクションでやったと思います。
観客A: 全国で何館ぐらいで上映したのか分かりますか。
富田: どうなんでしょう。その辺の詳しい話は分からないので今度聞いてみます。すいません。
観客A: この作品は、知る人ぞ知る、そして語られて伝わっている映画なのでしょうか。
富田: そう思っていませんでした。僕らも公開時に観たわけではなく、僕はDVDで拝見してこの作品を知った。まさか自主制作だと思いもしませんし、普通の商業映画として大々的に公開されたものだと思っていました。
観客A: 1974年くらいの公開なのでしょうか。
富田: 1982年に公開です。僕が小学校くらい。
観客A: 私は1982年よりもうちょっと前の時代、1977~8年のような印象を受けました。どうも興味深いお話をありがとうございました。

観客B: 『さらば愛しき大地』と『国道20号線』が点と点で繋がっている、というお話がありました。私は今日観て、『さらば愛しき大地』でのシャブ(覚せい剤)と、『国道20号線』のATMやドン・キホーテが並ぶ風景、これが繋がっているのではないかと思いました。
主人公の幸雄(根津甚八)や大尽(蟹江敬三)はシャブに逃げたけれど、脇に出ている同じような労働者は、覚せい剤は非合法なので、そこには逃げたくても逃げられない。そういうことは直接には描かれていませんが、そういう背景があるのではないか。『国道20号線』の時代になると、逃げる対象はパチンコやATMになり、これは合法なので誰でもそこに逃げられる。
『さらば愛しき大地』では幸雄(根津甚八)は覚せい剤のせいで順子(秋吉久美子)を殺してしまうところまで行き着く。しかし『国道20号線』の場合はそういうところまで行き着かないで、しかしズルズルと廃人になってしまう。
富田: 『国道20号線』を作った時に仲間と話したことなのですが、非合法なものは、禁止されているだけにある程度は歯止めが効く部分がある。しかし合法なものは、合法であるが故に、気付かないうちにジワジワとやられていく。アルコールがその典型だと思います。『さらば愛しき大地』で、精神病院で「俺はアルコール中毒なんだ。頭はおかしくねえ」と言うおじさんが出て来ますが、あれがまさにそう。
 ATMもそうだし、あとパチンコ。『国道20号線』で描いたパチンコというのは、合法が故にジワジワと蝕んでいく。非合法の賭博で1億円、2億円と負ける世界もどこかにあるのでしょうが、そうではなく、仕事終わってパチンコにいって8千円勝ったの、2万円負けたというのが延々とジワジワ続いていく。パチンコ台の前に延々とたたずんで、子供を車に置きっ放しにしてとか。「あの人はパチンコで家を建てた」とか囁かれる人が地方にいたりするんですよね。逆にいくらでもパチンコで家を潰したり売り飛ばしちゃったりという人もいる。大きな地主の人がいて、そのドラ息子がパチンコにハマり、次から次へと土地を手放すとか、そんな話は地方に行くと幾らでもあります。
『国道20号線』の時に、そういう合法が故にジワジワと人がやられていく感じを描こうというのはあったと思います。
観客B: そういうものを描く『国道20号線』は凄い映画だと思います。『さらば愛しき大地』での違法な覚せい剤が、そういう合法的なものに変っていく怖さなのでしょうか。
富田: そうですね、シンナーの主成分であるトルエンは、工事現場みたいなところに行くと簡単に手に入ってしまう。でもね、シンナー中毒が人間が一番分かりやすく壊れていく。歯はボロボロになるし。そういう「法律的に緩いもので、結構蝕んでいくものはあるよね」とよく仲間内で話します。
観客B: ありがとうございました。

観客C: 映画を作るときに、人物を描くため、実際にいる人を調べたりすると思います。今回の映画のような主人公が実際に自分の身内とかにいたら、その人がこの先どうなっていって欲しいとか、映画を作る際に思ったりしますか。
富田: 自分の作品である『サウダーヂ』の話をさせて頂くと、僕らの映画作りは、その場所で生活している人々のところに実際に行って、その人たちと共に生活をする中から作られていく、作っていく。今回は、日本に来ている日系ブラジル人とかタイ人の人たち、そして僕の小学校の時からの友人でもある土方の鷹野毅とかです。例えば鷹野毅について話しますと、日常的に慢性的に続く土方のきつい状況がある。僕らが幾らロカルノ国際映画祭だとかで大騒ぎしても、一切ピクリとも喜びもしない。「ごめん、俺はそっちのことは考えられない」というくらい日常がきつい。
そういう彼らの生活の中から僕らは映画を作っていく。僕はリサーチで1年くらい入ったのですが、日系ブラジル人の彼らもやはりにっちもさっちもいかなくなった。でも、どうしてあげることも出来なかった。映画に「何とか協力してくれ」と協力してもらって、作って。結局、彼らは日本に残ることも出来ずブラジルに帰ってしまいました。
僕はこういう方法で映画を作って来ました。だから「自分の家族で身内だから」ではなく、彼らが良くなりゃイイと思いますよ。ただ彼らのことだけじゃなくて、自分たちの状況も厳しい。そこで何とか自分たちも何かしら前向きに考えていく。一生懸命映画を作ることで、そういうことを振り切ろうと思っているんですけどね。やっぱり、良くなればいいと思いますよ、それは。ただ、なかなか難しい。
観客C: ありがとうございました。

観客D: 『さらば愛しき大地』の主人公が30歳過ぎですよね。でも、主人公からあまり焦りを感じない。奥さんがいて、愛人がいて、食わせてもらっているという安心感でしょうか。僕は30代に入り、焦りみたいのを感じています。先ほど富田克也監督が言っていた「土方をやればいいと思っていたけど、そういうのがなくなる」という話。主人公みたいな状態で、土方をずっとやってきて、他の仕事の経験があまりなくて、そして土方がなくなって、「次に何をやればいいのか」と思うのですが、もし城繁幸さんだったら、どうしますか。
城: 僕の田舎は山口県徳山市なのですが、ドンドン商店街が閉まって凄いですよ。僕が中学校の頃にマクドナルドが出来て、初めてハンバーガーを食べたのですが、帰省したらマックも潰れている。理由は明らかで、若い人がいない。お爺さんお婆さんはハンバーガーを食べないから、マクドナルドが潰れる。
じゃあ田舎は凄いシャッター通りで悲壮感が溢れているかというと、うちの田舎だけかもしれないけど全然そんなことはない。お爺さんお婆さんは、身の回りの身辺整理みたいなものを自分たちで始めていて、山奥の村から出てきて、中核的な街・集落に集約が進んで、そこでは人口が増えている。増えると、それに対応してインフラを作らなきゃならず、そこで仕事があるんですよね。
お爺さんお婆さんばっかりなので、買い物難民といいますか、そういう買い物とかも仕事になりますから、むしろ求人が増えている。あと介護職など、そういった高齢者向けのサービスはドンドン新しく出来ている。道路や橋を作るような仕事は確かに減っていますけど、新しい仕事が一方で生まれている。
田舎の7~8割は、実はここ百数十年の間に出来ました。それまでは原野とかで、そこを切り開いて作っていった。例えば二子玉川(東京都世田谷区)のあたりも、河原か林しかなかったのを切り開いて街が出来た。それが今戻りつつある。
『さらば愛しき大地』の主人公たちは、直接的には描かれていないけど、農村にノスタルジーがあると思うんです。だけどそれを捨てて、戦後の50年、新しいものを作ってきた。そうして戦後に作られた、製造業とか、終身雇用とか、道路や橋を作ることに、僕もやっぱりそうだけど、いま凄くノスタルジーを感じている。それが焦りなんですよね。だけど一方で新しい目は出てきているわけだから、それを伸ばしていくのが我々のミッションじゃないかなと思います。
だから、「何の仕事も経験のない30歳だとして、何をやればいいですか」と聞かれたら、僕はサービスだと思います。サービスは中国とかにアウトソーシング出来ない。だから、日本人向けのコミュニケーション労働は絶対に残りますし、プログラミングとかと違って、ある日お給料が急に半分になるとか、そういうことは無い。私はサービスが、これからの日本を作ると思います。
観客D: ありがとうございました。

司会・伊達: では最後に、『サウダーヂ』の予告編を観て頂いて。
富田: フィルム版です(笑)。ぜひ観てください。


--- 映画『サウダーヂ』予告編の上映 ---


司会・伊達: 皆さん如何だったでしょうか。それでは最後に、富田克也監督から何かあれば。
富田: 最後に告知をさせて頂きます。いま予告編を観て頂いた『サウダーヂ』が10月22日(土)より渋谷ユーロスペースで公開になります。その前週の10月15日(土)~21日(金)に僕ら「空族」が今まで作ってきた作品を一挙公開して、そのまま『サウダーヂ』に雪崩込んでいきます。この空族特集のチラシが出来たてホヤホヤですので、帰りに受け取って頂ければと思います。
その空族特集の最後の21日(金)に、柳町光男監督の『旅するパオジャンフー』(1995年)を上映します。これは元々テレビの企画として制作された作品で、台湾の旅芸人の薬売りのドキュメンタリーです。柳町光男監督は『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』(1976年)というドキュメンタリーで衝撃的なデビューを果たした人なので、ドキュメンタリーを撮らせたら素晴らしいドキュメンタリーを撮る。撮影も、たむらまさき(田村正毅)さんです。
これは本当に観れなくなってしまった映画で、僕らが引っ張りだしてプログラムに入れさせて頂きました。ご興味ある方は是非いらしてください。
司会・伊達: 『サウダーヂ』の前売券も本日は販売しておりますので、宜しければお買い求めください。富田克也監督、城繁幸さん、どうもありがとうございました。皆さんどうぞ拍手でお送り下さい。